人生の旅に出たくなったら・・・沢木耕太郎

 

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当時1970年代から80年代にかけてバックパックという旅行が流行しました。

大きなリュック一つで世界を歩き回るという旅です。

日本でも外国人がよくしている姿を見ることがありませんか?

 

さて、そのバックパック旅行の先駆けとして「深夜特急」と著書を書かれた、小説家 沢木耕太郎さんがいます。自分の旅を探し続けている方です。そんな方が次のようなことを述べています。「旅」というより人生に関してですかね。

 

 

<さて、これからどうしよう……> 

 そう思った瞬間、ふっと体が軽くなったような気がした。

 今日一日、予定は一切なかった。せねばならぬ仕事もなければ、人に会う約束もない。すべてが自由だった。そのことは妙に手応えのない頼りなさを感じさせなくもなかったが、それ以上に、自分が縛られている何かから解き放たれていくという快感の方が強かった。今日だけでなく、これから毎日、朝起きれば、さてこれからどうしよう、と考えて決めることができるのだ。それだけでも旅に出てきた甲斐があるように思えた。

 


旅がもし本当に人生に似ているものなら、旅には旅の生涯というものがあるのかもしれない。人の一生に幼年期があり、少年期があり、青年期があり、壮年期があり、老年期があるように、長い旅にもそれに似た移り変わりがあるのかもしれない。私の旅はたぶん青年期を終えつつあるのだ。何を経験しても新鮮で、どんな些細なことでも心を震わせていた時期はすでに終わっていたのだ。

 

私の旅がいま壮年期に入っているのか、すでに老年期に入っているのかはわからない。しかし、いずれにしても、やがてこの旅にも終わりがくる。その終わりがどのようなものになるのか。果たして、ロンドンで《ワレ到着セリ》と電報を打てば終わるものなのだろうか。あるいは、期日もルートも決まっていないこのような旅においては、どのように旅を終わらせるか、その汐どきを自分で見つけなくてはならないのだろうか……。

 この時、私は初めて、旅の終わりをどのようにするかを考えるようになったといえるのかもしれなかった

 


もし、この本を読んで旅に出たくなった人がいたら、そう、私も友情をもってささやかな挨拶を送りたい。

恐れずに。 しかし、気をつけて。